一度だけ、フランスでヒッチハイクした事がある。


二十歳くらいの時、女子ふたりで3カ月あてのないヨーロッパ旅行をした。
あてがないので…何も考えず、土、日に予約なしでモン・サン・ミッシェルに向かった。
モン・サン・ミッシェルはフランス西海岸にある小島に築かれた美しい修道院。
パリからかなり時間をかけて、やっと近くまでは辿り着いたが…
その日は日曜日。もちろんバスはない。
行きは根性で10キロ程歩いたが、帰りは自然と道路にむかって親指を立てていた。


1時間程して やっと止まってくれたのは、スペイン人のムッシュ−。
ヒゲのない「お茶の水博士」風なおじさんだった。
それから「お茶の水博士」は心良く近くの大きい駅まで送ってくれ、
「コーヒーでも。」ということになり、
カフェで結局、気づいたら3人でビールを飲みはじめていた。


「あらら。またパリ行きの列車が行っちゃったね〜」と
何本かの列車を逃しつつ…
テーブルの上のグラスはどんどん増えていった。
言葉もろくに通じないのに、「お茶の水博士」と私達はずっと笑っていた。


博士は全部のビール代を払い、私達の列車を見送ってくれた。
(その後も、いろんな土地でいろんな「おじさん」にビールを御馳走になるのであった。)
外国で無防備なのかもしれないが…なんだかすごく楽しかった。
「若さ」がやらかした、いろんな「出来事」が今の自分に役だっている気がする。


今でも…テレビや雑誌で、あの美しいモン・サン・ミッシェルを見る度、
「世界遺産」や「修道院」のことよりも
あのスペイン人の優しい「お茶の水博士」を思い出す。


「若かったなぁ」と思う。
そして「旅して良かったな。」ともすごく思う。



Page53(文・写真/ K. Tadano )   





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